興味の壺

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YAMAHA XT500

ヤマハ発動機から、YAMAHA XT500が発売されたのは1976年。それは、かなり衝撃的な出来事としてオフロードファンには受け止められたと記憶している。

YAMAHA XT500 サイドビュー 画像サイト:3rd-garage blog

それまでのオフロード車の仕様とは明確に一線を隔したコンセプトで仕上げられたもので、カタログでも謳われているように、はっきりとエンディーロモデルとしての性格付けがなされ、4ストロークビッグシングルのトルクで荒野を走り抜けていくというイメージ付けがなされていた(元々はエンデューロレース用として開発されたマシンであるTT500を公道走行可能にしたものである)。

ヤマハの説明によると ―
「力にまかせて大地を突っ走る」というアメリカの企画担当者から寄せられた注文に、シンプルかつ忠実に応えるための必然。4ストロークビッグシングル。
それは、4ストロークエンジンのバリエーションを増やし、強化するという当時の会社の方針にもマッチ。そして「軽く、コンパクトで、高い耐久性を誇り、なおかつ美しい」という明確な開発の狙いを持ったエンジン設計がスタート。
車体設計においては、「ビッグシングルの振動とタフな走りに耐える」頑丈さ。
そして極限までの軽量化がテーマとされた。
1975年、まずアメリカ向けにエンンデューロマシンTT500が、続いて1976年に保安部品を装備したXT500が国内外で発売され、特にアメリカでは荒野を豪快に突っ走るウィークエンドのプレイバイクとして瞬く間にヒット。さらに各種エンデューロレースでも連戦連勝の活躍を見せた。
と、ある。

MXコースを走るには重いし、サスペンションもプアだったが、このバイクはそのような使い方をするのではなく、ごく普通の林道のようなオフロードを気持ちよく走り抜けるのに適するよう意図されていた。
事実、ハンドルは少し高くセットされ、それはMX的には高すぎると思われたが、ゆったりとしたポジションを取るように仕向けてあったのだと思う。

重い車重と、トライアルパターンのタイヤを履いていたため、ダートではやや制動距離が延びた。
しかし、慣れると強いトルクを用い、低回転でも後輪で容易に向きを変えられ、同時にそのトルクを用いて簡単にウィリーを行うことも可能だった。
つまり、モーターバイクの楽しみの一つである、アクセルコントロールを安全な速度域で楽しめるバイクだった。

車体各部の品質は高く、仕上げは丁寧で、各パーツの一つ一つは神経が行き届いた形状をしており、工業デザインのプロを唸らせた。
また、クランクケース表面にオイルフィルターやコンタクトポイントケースを独立させたスケルトンデザインで、機能美という感じを意図的に強調させた処理の方法は、その後モーターサイクルデザインにおいて、現代まで続いている手法だといってもいい。

潤滑方法はドライサンプで、メインフレームとダウンチューブをサンプタンクとした凝った方法を採り、エンジンオイルは、ダウンチューブを経由してクランクに戻る。
車載工具は一般的な品質だが、タペットゲージが同梱されている点には驚かされた。

YAMAHA XT500 エンジン 機能的で美しいエンジン、気品の漂う車体全体のスタイルではあったが、スタイル上の弱点として、流用された灯火類が大きく、車体の良さとミスマッチであったし、前後のフェンダー形状がお粗末だった。
また、左サイドのエンジンの形状が右サイドに比べ、マッス感に欠け、弱い。

XT500は、国内での販売は永くはなかったが、海外での人気は高く、とりわけヨーロッパでは、ヤマハの予想を上回る人気を集めた。
思えば、500t4ストロークのダートバイクは、BSAや、トライアンフのスクランブラー以来、発売されていないのではないかと思われ(2006年時点)、4ストビックシングルが好きなヨーロッパの方々には好感をもって受け入れられたと思われる。
欧米での販売はかなり長く続き、今でも世界各地でXT500のサイトが存在し、米国のオークションでは今なお、かなりの数の部品が動いているのを見ると、その人気の高さを再確認できる。

日本発のトレールバイクで、XT500のように世界で記憶に残る製品は珍しい。
美しく、力強く、飽きが来ず、所有したいという思いを抱かせて止まない。
YAMAHA発動機、傑作の一台。