興味の壺

メカデザイン、機器デザイン、プロダクトデザイン、伝統的アーキテクチャー等を紹介します。

Kawasaki A7-SS

ホンダが、CL72を販売していた頃、当然、他社もスクランブラーを販売していた。
しかし、ヤマハや、スズキのスクランブラーには見るべきものは無かった。
エンジンからデザインまで、エンブレムを外せば見分けがつかないほどよく似た、没個性で魅力に欠けたモデルばかりだった。

モーターバイクの製造から撤退したブリジストンも、当時はスクランブラーを製造していた。
デザイン的には、ヤマハやスズキと同じようで、特に際立つものはなかった。
高性能ながら、ロータリーディスクバルブのため、トルクバンドが広く扱いやすい。
アメリカでは現在でも、素晴らしい状態のモデルが売りに出ているし、日本のショップがアメリカから逆輸入し、レストアして販売している。
非常に高価だが、購入するマニアがいるから世の中分からない。

Bridgestone 350GTO
エンジン:空冷2ストローク・ロータリーバルブ並列2気筒
最高出力:、40PS/7500rpm
最大トルク:4kgm/7000rpm
最高速:150km/h
トランスミッション:ロータリー6速
クラッチ:乾式多板
タイヤサイズ:3.25-19(前後共)
製造期間:1967〜1971年
0〜400m加速では英国のトライアンフ650ccを上回る。

Kawasaki A7-SS 左側面 Kawasaki A7-SS

改めて驚くのは、「カワサキ」である。
この時代から現在まで、変わらないアイデンティティを貫いている。
特に、A1、A7という、ロードタイプをスクランブラーに仕立て直した、A1-SS、A7-SSは、ホンダとは一線を画し、見事カワサキの個性を主張していた。

この記事は、主にデザイン面から見たスクランブラーをあれこれ評価しているのだが、スタイルだけでは個性は評価できないし、当然ながら、マーケットに於ける評価や真価はそれだけではない。
エンジンや運動特性もさることながら、結局は企業の指針や理念が製品に投影されていく。

一言でいえば、「とんがった」カワサキ。
繰返すが、この姿勢は、基本的に今も変わらない。
学生時代、時折見かけた、A1、A7には、寄り難い雰囲気があった。
高性能に併せ、独特の威厳や、バイオレンス、退廃、危険さを体現していた。
モーターサイクルには、象徴としての「ワル」らしさがあり、アビントンやコンフェデレート等のマッスルバイクは、少なくともそれを表現した商品であると思う。

Kawasaki A1-SS 左側面 カワサキも、それを一途に具現化してきたことを改めて思い起こす。
画像でも、見事にそれが表現されている。
そのせいかどうか、アメリカでは、今も熱烈なカワサキファンが多い。

Kawasaki A7-SS
エンジン:空冷2ストローク・ロータリーバルブ並列2気筒/338cm3
最高出力:40.5PS/7,500rpm
最大トルク:4kgm/7,000rpm
製造期間:1967〜1971年

余談
A1は、アメリカでは1966年に発売され、「SAMURAI」とネーミングされた。
A7は、同じく1967年に発売され、ペットネームは「Avenger」だ。これは、「仇討者」「復習者」という意味である。
まだ、戦後が今よりも身近にあった時代に、これらのネーミングで売っていたのだ。
凄いメーカーだと思う。
間違いなく、気合に筋金が入っている。

A1、A7の後、カワサキは、カワサキらしさを炸裂させた伝説的なモーターサイクルを発表した。
カワサキ マッハ3(画像下)である。

Kawasaki H1 MachV 右側面 Kawasaki H1 MachV
2ストローク3気筒、500t
最高出力:60ps/7,500rpm
最高速度:時速200km
製造期間:1969年〜1977年

MachV(マッハ3)は、北米市場でひときわ異彩を放つ存在であり、カワサキのイメージを変え、英国車を駆逐していった。
MachVは、同社ウェブサイト、「川崎重工業の歴史」に紹介されている2台のモーターサイクルの内の一台(他は、Z1)。
社内的にもエポックメーキングな製品だったことが伺える。

そして今年(2015)、カワサキは、スーパーチャージャー付公道仕様200馬力という、とんでもないバイクを発売した。
再度、男カワサキの筋金を見た気がした。