興味の壺

メカデザイン、機器デザイン、プロダクトデザイン、伝統的アーキテクチャー等を紹介します。

Dual Drive

前回まで、日本と米国の2輪駆動自転車を紹介してきた。
両車共、前輪にフリーホイールハブを装着している。

コーナーでは、前後輪の軌跡が違うため、車輪の回転数も変わる。
前輪は外側を通るために、後輪よりも多く回転する。
その場合、前後輪が直結状態だと回転数は同じになるために旋回できない。
そのため、前輪に装着したフリーホイールハブで前輪を空転させ、駆動を逃がしているのである。
当然、その間には、2輪駆動状態ではなくなる。これでは、何のための2輪駆動車なのか分からない。

これをメカ的に解決するには、自動車と同じように、デファレンシャルギアを組み込むしかない。
(前輪だけモーターアシストという手段もあるが、全てメカ的解決を目指したいではないか(個人的ロマン?))

DualDrive左側面 DualDrive右側面 所が、日本でデフ付きの2輪駆動自転車を自作してしまった方がいたのだ(!)。
上画像は、T氏が製作したデフ付き自作2WDバイク。

実は、デフを組込むメリットは、もう一点ある。
ハンドル操作によるバックトルクの影響が、問題ない範囲に収まる。

上記2点を考えただけでも、デフ化は必須だと思う。
では、デフ方式のデメリットは ―

1. 自動車で経験するように、片輪が空転した場合、非空転側の駆動がなくなる。
[解決案]
リミテッドスリップデフにする。
空転側に軽くブレーキを掛ける(デフ式2WDバイクでは、マニュアル式ブレーキLSDで充分)。

参考:デフを持たない市販2輪駆動車の場合、コーナーで後輪が空転した瞬間、前輪の駆動は復帰する。

2. 市販2輪駆動車のように、汎用パーツを用いた変速機構を利用できない。
[解決案]
車と同様、デフの前に変速機構を組込む必要がある。
(出力→変速機→デフ→パワーの配分・伝達)
クランク内に内装式変速機を組込めばいいのかもしれない(素人考え)。

画像を見ると、2輪駆動化にはこれほどの装置が必要なのかと、思われる方もいるかもしれない。
バイクの2輪駆動化は結構面倒なのだ。だからこそ、チャレンジの意味がある。
ただ、作者の制作動機は至極単純。
「本物の2輪駆動車に乗りたい!」

もの作りにおいて動機はいつもシンプル。夢とロマンが原点。

[参考]ブレーキLSD
Wikipediaより:最近、日産が電子制御安全システムのVDC(ビーグルダイナミクスコントロール)に組み込んでいる技術。トラクションコントロール技術の派生系。
従来のLSDとは全く異なり、差動制限にデフケース内のデバイスを用いるのではなく、ブレーキを用いる事が特徴で、システムが車輪の空転を検知すると空転輪にのみブレーキを掛ける事で差動制限装置と同様の効果を擬似的に再現する。

普通の路面を走っているだけでは、全輪駆動(2WD)のメリットは感じられないが、前輪が駆動していることを実感できるのは、ハンドルを切ってペダルを踏み込んだとき。
驚異的な回頭性で、うっかりしていると外に投げ出されそうになる。
すごい違和感で、巨大三輪車の感覚だと、製作者のT氏はいう。
これぞ、本当の両輪駆動バイクの醍醐味だと思う。
前輪にフリーホイールハブを組込んだ2WD自転車では、絶対に体感できない。

デファレンシャル部分 デファレンシャル部分。
入力から出力が直線(同軸)のため、非常にシンプルに構成される。
デフに入ったパワーは、左右のスプロケットにより、前後ホイールに伝達される。

デファレンシャル ドライブピニオンギアとサイドギア デファレンシャル部分。
ドライブピニオンギア(合計5個使用)とサイドギア(出力ギア)が見える。

フロントパワートレイン フロントパワートレイン。
シャフトの動的トルクを小さくするため、ドライブシャフトの回転数を高く設定している。そのため、スプロケットを大きくしている。
そうしない場合、ドライブシャフトを太くしなければならず、重くなってしまうため。

フロントパワートレイン 全体像 フロントパワートレイン。
ドライブシャフトは、サスペンションに対応するため、軸方向に伸縮ができるスプライン軸を用いる。
前輪伝達系の最終端には、ワンウェイクラッチ(シェル型ローラークラッチ)が入っている。空走中に、前輪がパワートレイン系を引きずると抵抗が大きいので、車輪だけフリーランさせるためである。

デフ原理図 デフ構造図 イラストはT氏自身による。デフの原理図と、構造図。デフの原理が良くわかる。

出力ギア1、2はフリー状態で、ドライブピニオンギアを介して入力と繋がっている。

出力ギア1、2共に同じ負荷だと、ドライブピニオン+出力ギア1+出力ギア2は同時に回転する。

前輪の駆動系には疑問を呈する人が結構いるという。複雑すぎるというのが支配的な意見だそうだ。
確かに、元工業デザイナーの私としては、もう少しシンプルにしたい所ではある。
ただし、個人で楽しむレベルで、車体に改造を加えず、汎用部品を活用したプロトタイプには、設計意図に異を挟むつもりは毛頭ない。
思いを具現化したという事実に、ひたすら敬意を払うだけである。

T氏の「Dual Drive」次号機の構想。
小径極太ホイールで前後変速機装備、ロングホイールベースのエキストリームバイク。
サスペンション無し。
ディファレンシャルユニットの基本構造は同じでよさそうだが、フロントパワートレインは改良の余地あり。
この目標のためにはフレームから製作する必要がありそう。とのこと。

個人で行うには、かなり大変だと思われるが、次号機の完成が楽しみである。