メキシコの巻尺
メキシコに滞在していた友人から頂いたものである。
分かりにくいが、テープはケースの内側に張り付いている。
板状の金具は、中心から外側へ向かってバネの力で広がり、それによってテープを固定している。
板状金具の外側部分を、内側に押さえることによってロックを解除し、内部にあるテープの端をつまんで引出す。
円筒状のケースは回転するようになっており、テープを引出すと回転する(同時に回転するからテープがスムースに出てくる)。
初めて見るもので、ユニークな構造である。
世界には様々な発想の道具があるものだ。
所で・・・
どうしてこのようなモノを作ったのだろう?。
テープの長さは2m。けして長くはない。むしろ短いくらいである。
しかも、2mの目盛を使う場合は全部引出さなくてはならない。
(全部引出すと単なるテープ状。巻尺の替えテープと同様)
この長さでは、カーペンターは使えない。
家具職人にとっても短い。
しかも、テープの端にはフックがない。
また、ケースから斜めに出てくるのでケースを立てることができない。
そのため、マーキングをするときには不便。
だから、この道具に関し、どのような職種の方々が、どのような使い方をするのか、よく分からない。
考えられることは、折尺の代わりだったら、いいのかもしれないと思った。
折って収納するより、巻き取る方が効率的だからだ。
(ただし、現在において、折尺でなければならないという職種を、私は知らない)
一寸待て・・・
プラスチック成形が一般的ではなかった時代を考えなければならない。
この巻尺と、現在簡単に入手できる、プラスティックボディの巻尺と比較してはならないと思った。
現在の巻尺のケースはプラスチック成形品であり、構造や使い勝手は合理的である。
しかし、ひと昔前の巻尺のケースはキャスト金属だった。
キャスティング(鋳造)は面倒で金がかかる。
精密で安価な金属鋳造技術のなかった時代、板金加工が最も手軽で、ローコスト、少量生産にも適する。
おそらく、最初は直定規の時代だった。
携帯を考えれば折り尺になる。
この場合、長さはせいぜい1m(現在の折尺も同様)。
その時代に、精密で、長さ2mの目盛を保障し、かつ、コンパクト化を実現した。
そう考えると、これはなかなかの優れものだった可能性がある。
当時の生産技術を用い、ローコストで、ある程度の長さと収納性を両立させたのだ。
なにしろ、スプリング鋼で作られた長いテープを、このような形式で収めようとする発想がユニークである。
しかも、テープ自身のバネッ気により、先端を少し引出すと、あとは勝手に飛び出てくる。
金具を押えるのを止めれば、瞬時にテープはその位置でロックされる。
元来は、メキシコの旧宗主国スペインから持ち込まれたものか?
安易に現在のテープと比較して終わるところだった。
おそらく、折尺の時代と比較しなければ、この製品の良さは見えてこないのだろう。
この製品のデザインの意味を考えるうちにそう思った・・。