興味の壺

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V2 ロケット

メイン会場からは少し外れた建物に、それはあった。
想像だにしていなかったから、戸惑った。
子供の頃に、漫画週刊誌のグラビヤページだとか、図鑑の類でしか見たことがなく、実在の現実感がまるでなかったからだ。

V2ロケット全体画像 人類初の弾道ミサイル。
これまでは、試作品程度の認識でしかなかったが、巨大な地下工場でかなりの数が製造され、実践使用されていたのだ。

実用化までには、おびただしい数の失敗、それを許す軍部の方針と、研究者フォン・ブラウンの執念があった。
基本技術は、現在のミサイルと同等で、現在も基本的に同じ技術が用いられている。当時としては、飛躍的な技術革新であったことに改めて驚嘆する。

V2ロケット エンジン部分 ロケットというと、エンジンの開発に目が行く。
当然それも極めて重要なことだが、自然科学に疎い私は、この飛翔体が発射後、自立飛行によって目的地へ着弾するということへの認識がなかった。
エンジンや機体設計も重要だが、無人飛行体を離れた目標へ誘導することは至難だ。
その為に、V2では慣性誘導技術が用いられた。

慣性誘導では、ジャイロコンパスと加速度計を用いる。
加速度を一度積分すると、速度が出る。速度を積分すると距離が分かる。
ジャイロでは、XYZ方向の変化が分かる。これによって自分の位置を把握する。

V2ロケットは、シンプルで信頼性の高い方法で慣性誘導を行った。

最高高度到達直前に、V2のエンジンは停止され、後は慣性で目標地点に落下する。
エンジンを停止する点を「ブレンシュルス点」という。V2は、このブレンシュルス点を通過した後、慣性飛行にうつり、その後、最高点に達する。最大射程の320kmの場合、最高点は高度 93km。
これは、成層圏のさらに上の熱圏。エベレスト山の10倍の高さで、空気はほとんどない。もちろん、それまで人類が達した歴史上最高高度である。この最高点を通過した後、自由落下に入り、大気圏に突入する。後は、目標に向かって落下するだけ。

この飛行方法では、V2をコントロールできるのは、ブレンシュルス点まで。
つまり、目標への命中率は、ブレンシュルス点を通過する時の、方向と速度だけで決まる。そのため、ブレンシュルス点を正しい方向と正しい速度で通過するよう、自身で姿勢制御と速度制御を行わなければならない。

ロケットの飛行方向は、ジャイロによる方位の測定によって、定めた進路とのズレを比較し、噴射舵と方向タブで姿勢を修正し、着弾目標に合わせる。

次に、どの位置でエンジンを停止し、弾道飛行に移るかを決定しなければいけない。
これによって、目標までの距離が決定される。
V2では、振り子ジャイロをおき、その角速度から速度を求めた(参1)。
角速度とは、単位時間あたりの「回転角」のことである。
このジャイロに結合された機械式ディスク積分器によって、距離を算出し、エンジンカットオフのタイミングを決定した。

長距離を目標地点に誘導するには、高精度の時計、加速度計、ジャイロに加え、部品の信頼性が重要である。
兵器としての問題点は多々あったようだが、ここでは触れない。
何しろ、現在のロケットやミサイルは、ここからスタートした。
凄まじいものを実用化したものだと改めて思う。

V2ロケット製造風景
参照:WAR THUNDER

[参1:速度と角速度の関係]
速度を:
角速度を:ω
円の半径を:
とすると、v=rω

[参2:V2用ジャイロ型加速度計]
画像下は、オークションに出ていたV2用ジャイロ型加速度計と、以下はその説明文の独断意訳・正確保障無(抜粋)。
第二次大戦中に、ドイツV-2ロケット用に開発された慣性誘導システムで使用されたジャイロ型加速度計。
推進力カットオフ装置を備えた、このシステムは非常にシンプルで信頼性があった。
追加したヨー制御用の電子ガイドビームを使用することによって、約800メートル(半マイル)横方向の誤差を減少させた。
このジャイロ型加速度計には、ディスク積分器が結合され、速度と距離と、決定された推進カットオフ時間を計算した。
これらは、ミサイルの長軸に沿って安定化されたプラットフォーム上に搭載された。

V2用ジャイロ型加速度計
[参考3:博物館会場での説明ボードから(独断意訳)]
1919年、ヴェルサイユでの武器制限条約により、ドイツ陸軍は(条約に含まれなかった)非通常兵器の実験を進めた。
そのため、ロケットの研究開発は、1930年代中盤から行われ、1936年にはバルト海沿岸のペーネミュンデに特別研究施設を設立し、空気力学、構造、誘導システムやモーター(エンジン)の研究は、そこで着手された。
V2は、世界初の弾道ミサイルで、60マイル(96540m)の成層圏への上昇が可能であり、自動操縦装置は、フィンに取り付けられたタブをコントロールし、事前に設定されたコースへ機体を誘導した。
フランス北部から発射され、ロンドン着弾までの飛行時間は3分だった。
エンジン音もなく落ちてくるV2に対し、何の防御も警報もできなかった。
V2による最初のロンドン攻撃は1944年9月9日、11月中旬には、ほぼ千戸が被災した。
しかし、命中精度はよくなかった。ロンドンに対して発射されたうち、実際に都市部に落下したのは、1104発のうち517発だけだった。 ベルギーのアントワープには1265発が着弾した。

[余談]
ドイツ陸軍(V2は砲弾という認識から、空軍ではなく陸軍が所轄)は、着弾情報をイギリスのラジオニュースから得て位置補正を行っていた。
チャーチルは、その可能性に気が付き、為情報を流したという。

[諸元]
重量:12,500 kg (28,000 lb)
全長:14 m (45 ft 11 in)
翼幅:3.56 m (11 ft 8 in)
弾体直径:1.65 m (5 ft 5 in)
弾頭:980 kg (2,200 lb) 、アマトール火薬
推進薬:エタノール75 % と、水25%の混合燃料が3,810 kg (8,400 lb)、液体酸素が4,910 kg (10,800 lb)
飛行距離:320 km (200 mi)
誘導方式:ジャイロスコープによる姿勢制御